ナイスな不良おっさん系のやつなど

KALIK / BAHA MEN
Wea/Atlantic/Big Beat Records　1994/09/06

「ジャンカヌー」というバハマの伝統音楽を、いい意味で現代的な売れ線ポップスに仕立て上げた「バハ・メン」のデビューアルバム（実際のジャンカヌーはどんなものか知らないが・・）。モロにＲ＆Ｂ（昔のではなく９０年代以降の）的音作りで、華やかなパーティサウンドになっている。Ｒ＆Ｂの持つセクシャリティが昇華されて海辺のさわやかな潮風になったニュアンス、とでも言おうか。ヴォーカルの声はレニー・クラビッツやマキシ・プリーストに似ている。田舎と都会が絶妙に交錯しあうハッピーなノリの黒人音楽。

UNBELIEVABLE SOUND/SCOTTY
TROJAN

ジャマイカのDJスタイルのシンガーには色んな奴がいるがだいたいダミ声系とかイカツイ男くさい系の声の奴が多い。だがこのスコッティさんはカワイイ系の声のおっさんとして異彩を放っている。時にトボけていて、時にロマンティックにスイートで、時に子供のように爛漫で、時にシリアス・・・・・、全ての曲でかわいい系の声なのだが、そのキュートさが曲によって微妙にニュアンスが変わるのが面白い。かわいい系のレゲエオッサンといえばティッパアイリーという人がいるがそれよりさらに微妙なかわいらしさの色彩感覚が鮮やかな声をしているのだ。で、曲が全部いいんだ。デレク・ハリオットという人が曲を書いているらしいが、素晴らしいソングライターだと思う。オールドスクールのレゲエトラックにカリブ特有のポップな海感覚を抽出したアルバム。これはもう何回聴いたか分からないほど聞き込んでいる。

SPECAILIST IN ALL STYLES/ORCHESTRA BAOBAB
ワーナミュージックジャパン　２００３－０１－２２

セネガルのブエナビスタと呼ばれる、７０－８０年代に活躍したアフリカンサルサバンド、オーケストラ・バオバブの復活最新録音盤。プロデュースはユッスー・ンドゥールだ。キューバ音楽は今や国境を越えてあらゆるジャンルとの融合を成し遂げているが、アフリカには随分前から、逆輸入的にキューバ音楽が入っていた。その代表格が彼らってわけ。バオバブのサルサはキューバのサルサよりも、ちょっと崩れた感じがお洒落で、音の合間合間の無意識のダサカッコよさがいいんだ。管楽器のすっとぼけ具合、やたら高いヴォーカルの声、リヴァーブをたっぷりかけたギターの水っぽさなどが味わい深い。実に大人なアルバム。

DIRTY BOOGIE/THE BRIAN SETZER ORCHESTRA
INTERSCOPE 1998-06-23

これはとんでもなくかっこいいアルバムだ。かつてストレイキャッツというロカビリーバンドで鳴らした職人的ギタリスト・ブライアン・セッツアーがビッグバンドを従え、スイングジャズとロックンロールの融合を果たした。その取り合わせは一時アメリカでかなり流行っていたようだが、火付け役は彼で、彼が最高峰だろう。アームとリヴァーヴを駆使した「ドゥワンギング・ギター」と呼ばれるドライヴィング・サウンドとビッグバンドのホーンセクションとの相性もよく、相乗効果でダイナミズムが出ている。最も海を感じさせるのはスタンダードナンバーの「ＳLEEPWALK」。まさに夢幻的な響きが心地よい。そして全曲、終始声が実に不良不良していてかっこいい。この適度に計算的に気取った不良性は中年にしか出せない非常に味わい深いものだ。と言っても枯れた味わいなどというしみったれたものではない。めっちゃ元気な現役バリバリの不良中年性がにじみ出て踊っているのだ。で、親愛なるオッサンの方々、これを聴いてニンマリしてくださいね。

KING OF THE SURF GUITAR/DICK DALE
Rhino　1989/08/29

一昔前に流行ったクエンティン・タランティーノ監督の映画「パルプ・フィクション」の最も印象的な場面で使われていたのがこのディックデイルの「ミザルー」という曲。ディックデイルはサーフィンギターというジャンルの創始者であり、同ジャンルの凡百のギタリストから遥かに抜きん出た創造性がフレーズに感じられる。かの天才ギタリスト、ジミ・ヘンドリクスも影響を受けたと言われるが、端々に超絶的なテクを隠し味として散りばめていて、うならされる。そしてなんといっても海的だ。例えば強烈なとんでもないビッグウェイヴに挑むサーファーの、「クールに覚醒した熱狂とでもいうような内的世界」、といった具合の詩情を描いている演奏がある。全体的に小気味よさ、痛快さの中にもメランコリーが貫かれている。この手のギター・インストでおもろいやつといえば、少々趣は異なるが、ジョー・サトリアーニなんかになってこようか。