やるスポーツ

　こんにちは。アイランドストリームのtsuyoshiです。
　台風22号、またまた上陸しましたね。
　この台風、列島付近にきてやや勢力を弱めましたが、太東諸島にある頃は「９２０ヘクトパスカル」と、とんでもない勢力を誇っていました。東海地方をかすめて伊豆半島に上陸し、東京湾を通って千葉県に再上陸、そして太平洋の彼方に抜けていきましたが、台風針路の東側にあたる地域では、かなりの強風と大雨の被害をもたらしました。
　台風は反時計周りで進みゆくので、その東側がより危ないのですが、今回も前回と同様、東側に秋雨前線があり、台風との相乗効果で静岡の御前崎では総雨量400ミリを超え、南伊豆の石廊崎では瞬間最大風速６７．７メートルを記録しました。いずれもとんでもない数字です。

　紀伊半島では東側（東海寄り）が大荒れでしたが、西側（和歌山・大阪寄り）ではずっとベタ凪が続いていました。
　そして台風が紀伊半島を離れた土曜日の午後2時頃から、だんだんうねりが高くなり、栖原海岸沿いの道路まで波飛沫を飛び散らせていました。遥か遠方のうねりが紀伊半島をぐるっと回ってきて、時間差で湯浅湾にも入ってきたのですね。紀伊半島の場合、東側と西側ではまるで様相が異なるということは、よくあることです。そして翌日には、うねりは消え去っていました。

　もちろん台風通過時はシーカヤックなど論外なのですが、ある行きがかり上、無風状態で台風うねりだけが来ている状態で漕いだことは何度もあります。そういう場合、沖合いではうねりの傾斜が緩やかで楽勝なのですが、岸近くではとんでもない波濤が岩礁にぶち当たり、波飛沫が何十メートルも吹き上がって豪快この上ない様相を呈します。人には勧めないけれど、あれこそ人智を超えた海のパワーを感じさせられる、ワイルドなものです。

　さて、先週はイチローが記録を達成し、日本のプロ野球ではこれから日本シリーズが始まりますね。スポーツの秋ですね。まあ秋がどうこうというよりも、もっと大きな視点で、今はスポーツの時代だという気がいたします。スポーティな感覚が面白い時代、そう思えます。

　見るスポーツもいいですが、自分自身でやるスポーツがいいですね。
　そこには「実感」というやつがある。
　実感を覚えながら、そこからちょいと知的な物事に繋がっていく、その軽快なフィーリングがぼくの言う「スポーティな感覚」というやつで、それはいわゆる従来の「体育的」なものとちょっと違うノリです。で、シーカヤックですが、まさにそういう乗り物です。
　
　シーカヤックは不思議な乗り物です。テクニックを磨くという純然たるスポーツ的側面も面白いですが、実際上の海では、状況によって、特に前述したような台風状況下などでは、テクニックうんぬんもしばし、無意味になってくることがあります。海では、人間の力など及びもしない自然現象が無数に存在するので、テクニックがあろうとなかろうとひとたまりもなくなる、という状況が起こりうるということです。もちろんテクニックは大事ですが、その前にまず判断力とか予測力が大事になってくることが多いのです。

　そこで海に対する知識とか感性とかが重要になってくるというわけですが、まず安全面がほぼ完全に保障された上で行われるスポーツと違い、シーカヤックでは、ちょいと意識を拡張いたします。というと何やらややこしそうに聞こえますが、別に大層なことではなく、空のことやら風のことやら波のことやらに人一倍神経を持っていくということです。で、それは人智を超えた自然現象というよりワイドな土俵で展開されているものなので、必然的に、目とか耳とか皮膚とか鼻とかといった「五感」を、かなりワイドに研ぎ澄ませることになります。

　その実感から繋がってくる、ちょいと知的なものが面白いのです。色んなジャンルの本って非常に面白いなあと思うし、世界中の音楽って本当にスリリングだなあとつくづく思う。あらゆるものに海のようなワイドさを感じたり、自然のような奥行きを感じたり、あるいは感じなかったりします。そんな関係性、独自のバランス感覚こそが「自分自身だ」という感じがして、いいのです。なぜなら「シラケ」ないからです。もちろん頭のいい人は違うだろうけれど、個人的に「知的」なものって、五感による実感に繋がっていかない場合、やがてシラケてきます。繰り返すようですが、やはり物事って、ちょいと「知的」な、「ハイブラウ」なものに繋がっていくモメントみたいなものこそが面白いと思うのです。ベースとなるのが、マジになりすぎない、文字通り、軽快なる「スポーティ」なフィーリング。
　
　と、今回は抽象論でしたが、ぼくが思うシーカヤックにおける最良の「スポーティな感覚」とは、「野性と知性」「ワイルドさとエレガントさ」の同居という地平であり、それはまだまだ遥か遠い道のりなのですが、そんなこんなで、あらゆる自然現象の中でも最もダイナミックなもののひとつ「台風」というやつが来るたびに、色んなことを考えさせられます。もちろん今回もそうだったのでした。

　今週の海の言葉
　「シーカヤッキングとはロックンロールでいう（ロール）する感覚であり、ジャズで言う（スウィング）する感覚のことである」　